シェアハウスソーシャル・キャピタル調査レポート

調査員の研究日誌
ソーシャル・キャピタルとは何か?

今回は、タイトルにあるように、「ソーシャル・キャピタル」についてご紹介いたします。第3回でも触れましたが、今回は少し深掘りして紹介していこうと思います。

ソーシャル・キャピタルの定義は、“人々の協調行動を可能にし、社会の効率性を高める事ができる社会組織の特徴”とされています。とても幅広い事を指していますが、その代表的な要素には、信頼、ネットワーク、互酬性の規範(お互いにメリットを与え合う共有認識)などが挙げられています。

政治学者ロバート・D・パットナムの『孤独なボウリング』現在、学術界や政策面で話題を呼んでいるこの概念を世に広めたのは、政治学者ロバート・D・パットナムの『孤独なボウリング』でした。パットナムは、20世紀後半の3分の1を通じてアメリカ人はそれぞれのコミュニティから遠ざかっているという潮流を、様々なデータを用いて表現しました。

例えば選挙の投票率、地域のクラブ・組織の役員や委員を務めた割合、教会出席、労働組合所属、インフォーマルな社交(友人訪問、パーティ出席、バーへ出かける、日常的な会話)が、1960-70年頃から徐々に減少している、といったものです。

パットナムは、そういったソーシャル・キャピタルの低下が教育や児童福祉、安全で生産的な近隣地域、経済、健康、民主主義に対して大きな影響を与えている様子を、この書籍で示しました。これをきっかけに、ソーシャル・キャピタルの議論が各地で急速に活発になったのです。

現在では各国政府や世界銀行といった国際機関もその重要性を認識し、研究者と共にソーシャル・キャピタルに関する研究や政策の検討を進めてきています。2001年には、経済協力開発機構(OECD)により健康面、教育面、治安面、経済面でソーシャル・キャピタルの効果が報告されました。

ソーシャル・キャピタルの効果

まず、1つ目は健康面で効果があるようです。
社会的なネットワークを持つ事で孤立感によるストレスを減らし、認知症やアルツハイマーなどの精神疾患を予防される他、日常的に様々な支援を受ける事ができます。また、他者との関わりを持つ事で、主観的な幸福感に良い影響を与えます。

2つめは、教育面です。
児童の育成に対して近隣の相互扶助を受ける事ができ、母親の教育活動上の負担を軽減する事ができます。それによって児童への虐待が防止できる他、社会的な繋がりを得る事で子どもが成人生活への移行を円滑に行う事ができます。

3つ目は、治安面です。
ソーシャル・キャピタルの高さと犯罪発生率の低さの相関関係がある事が注目されています。ソーシャル・キャピタルは、個人に対しては利己的な行動を控える価値観を育て、犯罪や暴力を抑制する監視機能を果たしているようです。

そして4つ目が、経済面です。
ソーシャル・キャピタルを豊富に蓄積する事で、企業及び組織内の人々の協力を促し、生産性を向上する事ができるようです。企業同士、企業と消費者といった経済主体間の協力が容易になり、市場でも取引コストが低く済むために取引が活発になります。

このような研究や経験を通じ、各国の政策においてもソーシャル・キャピタルは非常に重要なトピックになりつつあります。

イギリス、アメリカなどの欧米各国では、移民問題、貧困問題、社会的排除の問題といった様々な社会的背景の元、市民参加、家族・子育て、教育、雇用、文化芸術など様々な面での政策提言や事例が挙がっています。

また、ソーシャル・キャピタルは公共の資産であると同時に、個人の資産でもあるという議論がなされています。ソーシャル・キャピタルは地域やコミュニティの効率性を高めるとともに、個人の生活を豊かにするものでもある、というものです。

ソーシャル・キャピタルに関する書籍

ここでは、ソーシャル・キャピタルに関する書物の紹介をします。ソーシャル・キャピタルについて興味を持たれた方は、是非参考にして下さい。

孤独なボウリング』(英題:Bowling alone)
 著者:ロバート・D・パットナム 訳者:柴内康文
 発行日:2006年4月25日 発行所:柏書房株式会社

ソーシャル・キャピタルに関する国際的な議論を巻き起こした書籍です。ソーシャル・キャピタルの概念の説明に始まり、米国社会の各領域で社会関係資本が急減している事を多様なデータを元に明らかにしています。さらに、その原因について論じている他、州レベルで指数化し、様々な領域に影響が及ぼされている事を示しています。

ソーシャル・キャピタル 現代経済社会のガバナンスの基礎
 編者:宮川公男・大守隆
 発行日:2004年9月30日 発行所:東洋経済新報社

2003年に内閣府経済社会総合研究所が主催した国際フォーラムを契機に、編者がソーシャル・キャピタルについての基礎的理解を広めるための論集としてまとめた書籍です。ソーシャル・キャピタルとその影響についての説明に加え、パットナム教授、山崎教授らのソーシャル・キャピタルに関する論文を収録しています。

ソーシャル・キャピタル―「信頼の絆」で解く現代経済・社会の諸課題
 著者:稲葉陽二
 発行日:2007年5月25日 発行所:生産性出版

従来の経済学では上手く扱うことのできなかったソーシャル・キャピタルを外部性の観点から整理し、その社会経済の諸問題への影響を包括的にまとめた書籍です。ソーシャル・キャピタルの概念整理を行い、続いて経済・社会の諸問題とソーシャル・キャピタルとの因果関係について扱い、最後にはソーシャル・キャピタルの政策的含意を検討しています。

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